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※三原と香月(キャラクター説明)

創作アカ:twitter

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『ring』

 俺は三原高志。女顔であることがコンプレックスの大学二年生。
現在、幼稚園から同じ学び舎で苦楽を共にしてきた香月涼多と、大学内の食堂で昼食中。

「なぁ、何で左手の親指?」
「え?」

「それ、岸原からだろ? 薬指じゃないんだ?」

 その涼多の左手親指に光る、これといった装飾の無いとてもシンプルな指輪。
ときおり愛おしげに撫でたり眺めたりしているそれの贈り主はおそらく、俺達が高校一年生のときの担任で、ついでに涼多の恋人でもある岸原孝弘。

「あー……最初はそこに嵌めたかったんだ。でも先生に『そこは本番用の指だから駄目だ』って言われちゃってさ」

 定食の味噌汁を飲みながらしばし逡巡した後、目を伏せ顔を赤らめながら答える涼多の姿を見て、聞くんじゃなかったと後悔。
それでもこちらが振った話なので、まだ何か言いたげな様子の涼多に視線で話の先を促す。

「でさ、どっちのどの指に嵌めようか悩んで意味を調べてみたんだ」
「あぁ、指だけじゃなく手の左右でも意味が変わるんだっけ?」
「そうそう。 左手の親指は【難関突破】って意味らしい。日本でも同性婚の合法化とかは……まぁそうなれば嬉しいけど、それより、せめて先生の家族と俺の家族には認めてもらいたくてさ」

 欲を言えば自分達が仲良くしてる人達にも認めてほしいんだ、と相変わらず顔を赤らめたまま、それでも先ほどとは違いこちらの目を見ながら話す涼多に今度はこちらが目を伏せそうになり、誤魔化すようにクリームコロッケを口にする。
正直なところ、俺は周りが思っているほど岸原のことを心底嫌いだというわけではない。

 教師としてはとても優秀……なんだと思う。熱烈なアタックを受け続けた末に、生徒と付き合いだすような駄目教師の一面もあるが……そこは「香月だから」という言葉を、この件に限っては涼多に免じて信じてやることにする。
期末考査前にある座学での、複雑なルール等の解説は普段スポーツとは縁遠い自分にとっても分かりやすかったし、意外に字が上手くノートに書き写しやすかった。
 また、授業を担当しているクラスの生徒達はもちろん、担当していないクラスの生徒達からも在学中だけでなく、卒業後も慕われ続けている。
それは例えば、涼多や翔也、俺、岸原も登録しているSNS。岸原の友人リストの大半は、涼多や仲尾、そして不本意ながら俺を筆頭に元生徒が占めているし、岸原が記事を投稿すれば彼らのほとんどが、SNSにありがちともいえる上辺だけではない、心のこもったコメントを寄せていることからも窺える。
ちなみに、友人リストに現在の生徒が居ないのは、意図的に避けているのだと向かいの席で鯖の味噌煮を味わっている涼多に聞いたことを思い出す。
同時に“現在の生徒”というワードから、卒業年度内はまだ生徒だからって指一本触れてくれないんだ!と卒業式の数日後に涼多から泣きつかれたことまで思い出してしまった。
好物であるはずのクリームコロッケが不味くなってしまい、泣きつかれた時に少しだけ、本当に本当に少しだけ岸原を見直したことを後悔した。

 話が逸れたが、一個人としてみても、あまり表情に変化が無くて何を考えてるのか分からないことの方が多いけれど、常識的だし良識的。
涼多に対してはもちろん、涼多以外に対しても誠実だ。個人的に合う合わないはあるにしても、かなりの割合で好感を持たれる人間だと思う。
 まぁ、俺は普通に嫌いだけどな。心底、ではなく、普通に。
それは俺が、涼多を娘のように可愛がっていることが理由だ。どこの世界に、娘の彼氏を手放しで歓迎する父親がいるだろうか。
たとえ可愛くてたまらない娘の選んだ彼氏が、非の打ちどころのない優れた人間だとしても、重箱の隅をつつくように気に入らない点を挙げるのではないだろうか。

「あ、だからって指輪に頼ってるわけじゃねぇよ? あくまで、お守り的な感じ!」
「あー……頼り切ってるなんて思ってねぇよ?」

 涼多が慌ててそう付け足したところで、思わず眉間に皺を寄せてしまっていたのだと気が付く。
そしてふと、ある疑問が浮かぶ。

「なぁ」
「ん?」
「俺は確かに岸原のことは好きじゃない。でも、二人のことを反対してる訳じゃないぞ?」

 さきほどの、仲良くしてる人達に認めてほしい、という涼多の言葉が暗に自分に向けられた気がして弁解する。
確かに反対していると思われても仕方のない態度をとっていることは認める。が、別に反対はしていない。かといって、諸手をあげて賛成しているわけでもない。
岸原に対する感情を抜きにすれば、中立な立場をとっている……つもりだ。

「それくらい分かってるよ?」
「は?」
「高志は、あえて賛成しないでくれてるんだろ?」

 思いがけない言葉に箸が完全に止まってしまった俺を余所に、涼多は目を細めながら話しを続ける。

「もし高志も翔也も、賛成してくれて応援もしてくれてたらさ。もし何かあった時……あ、嫌な意味でな? その時に誰にも相談出来ないと思うんだよね。マイノリティなことを否定しないで受け入れてくれた上に、応援までしてくれてるのに何だか申し訳ない気がしてさ。だから、人一倍心配性な高志は俺のそんな性格を知ってるから、俺が相談出来るように反対もしないし賛成もしない中立の位置にいてくれてるんでしょ? ……っていうのは、俺の思い込み?」

 そんな場合ではないのに、幼稚園からの付き合いは伊達じゃないなと変なところで感心してしまった。
岸原に対する感情も涼多の恋人だからこそであって、仮に涼多の恋人でなければ、岸原の友人リストに居るような彼を慕う元生徒の一人になっていたことは否めない。
もし他の誰か――例えば翔也――が涼多の恋人だったとして、俺は翔也に対して今の岸原と同じように接する自信がある、というか、自信しかない。

「そもそもさぁ、高志が先生のことをあんまり良く思って無いのは知ってるし、それは個人の自由だし別に良いんだけど。まぁ、ちょっと悲しいけどな。でも、付き合い自体を反対してる相手の前で先生とのことを頻繁に話したりするほど無神経な人間じゃないつもりなんだけど、俺」

 頻繁に話している自覚はあったのか。岸原との話を聞くたびに、俺の精神力がガリガリと削られていくのでやめてほしい。
……やめてほしいが、涼多の花笑みが見られなくなりそうで結局いつも最後まで聞いてしまうし、指摘できないでいる。こういうところは察してもらえないものなのだろうか。

「本番が来たら、ちゃんと教えろよ? 翔也と二人でお祝いするからさ」
「やばい、既に楽しみなんだけど」

 そもそも本音を言えば、大事な大事な幼馴染の幸せは大歓迎に決まっている。それを口にしない理由は涼多の考えているとおりで。
しかし言葉で伝えてしまうのは岸原のことも認めたことになってしまう気がして、前祝い代わりにコロッケを一つ涼多の皿に乗せる。
直接は言わないけれど、学食メニューの中で俺が最も好きな物だということで十分伝わったに違いない。

 指輪を撫でながら満面の笑みをたたえる涼多。
その表情のままクリームコロッケを口に運ぶ涼多を見て、新たな決意を胸に抱く。

「岸原に嫌なことされた時も、ちゃんと教えろよ? きっちりシメるから」
「……うん」



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