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「境さん、でしたっけ? この状況でよくそんなものを口にできますね」
土曜日の午後。複合商業施設内に設けられているコーヒーショップで、食べてるんだか飲んでるんだかわからないフレーバーティーを堪能していたら、正面に座る男・溝口に凄まれてしまった。
土曜日の午後。複合商業施設内に設けられているコーヒーショップで、食べてるんだか飲んでるんだかわからないフレーバーティーを堪能していたら、正面に座る男・溝口に凄まれてしまった。
こちらとしては、望んだどころかむしろ一生関わりたくない状況だ。
溝口と、もう一人の連れである池田の手元にはブラックコーヒー。色恋が絡んだ修羅場──それも男三人で、だ──にはこちらの方がふさわしい内容なのかもしれない。
対する俺の手元には、店頭やレジ付近でひときわ大きく宣伝されていた、季節の果物がゴロゴロ入っていて、なおかつドリンク上部にホイップクリームが盛られている色鮮やかな「そんなもの」。これを注文したのは単なる腹いせだ。
◇◆◇
◇◆◇
一週間前、大学時代からの友人である池田から呼び出され、告白された。
全国展開の大衆居酒屋。自分たちの音も周囲の音もほとんど遮断してくれない名ばかりの個室で、眉間に皺を寄せ、両手を合わせての告白。
約30年生きてきて、告白をしたこともしてもらったこともあるが、ここまで色気の欠片もない告白は初めてだ。
ビールジョッキをあおりながら、愛の告白をするにはムードが無さすぎるなとか、そもそも池田はゲイだったのか。まったく気付かなかった、隠すの上手いな、なんてぼんやり考えていた。
手はおろしたものの眉間に皺を寄せ続ける池田に、どう返事をしようかと考えているところで「ふりで良いんだ」と若干の涙目で頼み込んでくる姿に思わず頷いてしまった。
どういうことかと詳しく聞けば、勤務先に出入りしている業者に言い寄られて困っている。
しかも強引にデートの約束を取り付けられそうになり、とっさに実は恋人がいるから無理だ、と答えてしまったらしい。
しかも強引にデートの約束を取り付けられそうになり、とっさに実は恋人がいるから無理だ、と答えてしまったらしい。
「なら最初からそう言えばいい、嘘だろ、会わせろ、ってとこか? 向こうの言い分は」
「すげ……よくわかるな!?」
「前からちょっと抜けてるなとは思ってたけど、ちょっとじゃねぇな?」
そう、確かに池田には抜けているところがあった。
4人きょうだいの末っ子として育ったからか、それとも俺自身の長男気質からか、つい面倒をみてやりたくなるし、実際にみてしまう。
それにしても今回は、ちょっと、の範囲を超えているんじゃないのか。
「向こうが男だから、こっちも男を連れて行くほうが効果的だと思うんだよ」
だからお願い、そう言って今度は頭を下げる池田の姿に、男を連れて行ったら今は無理でも将来的にはチャンスがあると思われるんじゃないのかと思いつつも、改めて断るなんて真似はできなかった。
◆◇◆
「おい、聞いているのか?」
こうなった経緯を思い返していたら、またも溝口に凄まれた。面倒くさい。
斜め向かいに座る池田は俯いているせいで表情が読めない。このさい、演技しろとは言わないがせめて顔は上げておけ。
カップをテーブルに置き、面倒くさいだなんておくびにも出さず笑顔で溝口を見る。
「聞いてるもなにも、真琴は俺のものだから話すことは何もない。ただ、ちょっかいかけてきた奴の顔を見に来ただけだ」
初めて池田の名前を口にした。自然に言えただろうか。不安が顔に出ているような気がして、再びカップを手にする。
弾かれたように顔を上げる池田を視界の端に捉えつつ、フレーバーティーを飲み干す。
「行くぞ」
「え」
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